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IELTSコラム

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毎回、英語のスキルアップや大学内でのIELTSの活用方法、留学などに関する話題を大学の先生やご担当者様にお聞きするコーナーです。

第一回は神戸市外国語大学の玉井先生です。先生はListeningスキルと英語力向上という分野での教員養成、というご専門でご活躍ですが、今回はIELTSなどの留学向けテストと英語圏の文化的な背景の観点からテスト対策についてご寄稿頂きました。特にSpeakingやWritingでとても参考になる内容です。是非実践してみてはいかがでしょうか

 

テストの「文化的バイアス」にどう立ち向かう?

神戸市外国語大学 玉井 健 教授

英語圏への海外留学を考える人が最初の関門としてぶつかるのがIELTSやTOEFLといった英語力を証明するテストですが、初めて受けると戸惑うことが多いものです。こういった試験は大学入試英語とは目的・用途が異なる為に、試験の内容、構成はもとより、スタイルや指示までかなり違ったものになっています。受検者は、こうした英語能力試験の特徴を予め知っておくことで、無駄な不安やストレス、不用意な得点のロス等を回避することが可能になるでしょう。また4領域の言語知識の向上以外の方法でテストスコアの向上が目指せるかもしれません。ここではテスト内容のcultural bias(文化的バイアス:自身の文化的観点からは馴染みのないテスト内容や方法によって受検者のパフォーマンスが影響を受けること)について皆さんと考えてみたいと思います。

ielts%e3%82%b3%e3%83%a9%e3%83%a0neww使用目的から言うとIELTSやTOEFLは適性試験(aptitude test)と呼ばれるものです。志願大学の担当者は、志願者が大学でのアカデミック・ワークに耐えて、ちゃんと成果を出すことを期待できる英語力を持っているかどうかをIELTSのAcademic TestやTOEFLのスコアをもとに判断します。IELTSのバンドスコアが6とか6.5というのは、大学というある意味で特殊な「アカデミックな文脈」で予測される言語活動を考えた場合、そのレベルの言語能力がないと学生生活そのものが厳しくなるよということです。

ここで文脈という言葉を使いました。文脈とは場、状況、環境という意味で、大学志願者を対象とするAcademic Testで求められるのは、大学生活に関わる文脈で機能するコミュニケーション力で、それに対して移民申請等で要求されるGeneral Training Testでは、社会生活の中で機能できるコミュニケーション力が調べられる訳です。そういう意味では一口に英語能力と言っても、目的と文脈によって区別して考えられるべきものと言わねばなりません。

%e3%82%b3%e3%83%a9%e3%83%a0%ef%bc%92さて、ここで受検者に予想外のハードルとなるのは、想定される目的や文脈外の知識、例えば英語圏文化の習慣等を前提とした問題です。テストにおける文化的バイアスとは、受検者が特定の文化的な知識や価値観の有無によって影響を受け、結果にその影響が反映されてしまうことを言います。以前私がTOEFLを受験した時のことですが、スピーキングテストのお題が、「空港へ友達を迎えに行く途中で車がトラブルで動かなくなってしまいました。どうするかあなたの考えを述べなさい」というものでした。これには参りました。アメリカで人を空港に迎えに行くなどという経験がなかったので、どうしてよいかさっぱりわからなかったのです。日本で車がトラブった場合の対処法はわかっても、アメリカで同様のことが起こった時にすべきこと、できうることは何だろうとは思ってみたものの、空港で伝言を預かるのはどこか、そもそも携帯を持っていることを仮定してもよいのか、ロードサービスはあるのか、考えあぐねているうちに準備時間を使ってしまい、対処法を時間内にまとめられず、自信があったはずのスピーチテストでひどい失敗をしたわけです。生活文化的な知識の有無が大学や大学院というアカデミックな文脈での研修を志願する海外の受検者に影響を与えるとしたら、妥当性という観点から見てテスト項目としてはどうだったかなと言わざるを得ないかもしれません。

テストは、社会的にはgatekeeper(門番)の役割を持っています。ある問題の使用によって特定の文化圏からの志願者がハンデを負い、それが彼らの将来的可能性に影響してくるということがあるのです。テストとはそのように社会的、政治的な力を持ちうるものでもあり、だからこそ、現在世界で広く使われている各種言語テストはこういった文化的バイアスを取り除くために相当努力をしていますし、IELTS等のパンフレットにもそれは明記されています。グラフや統計を使った問題等は分析力を見る問題でありつつ、そういったバイアスがかかる度合いは低いと言えるでしょう。

ただ一方で、文化的バイアスが全くないテストというのも実際のところ不可能なのです。IELTSなどはUAEなど非英語圏国の大学入学試験の一部としても用いられているようですが、基本的に英語圏文化の中で営々と育まれてきた学問的文化の上に立ってデザインされていて、西欧的な学問文化の中で育まれてきた議論の枠組みや論証の方法に則って講義や研究が行われ、それを英語で対処してゆく能力が志願者に期待されるわけです。図書館は言うに及ばず、インターネット上での情報収集、寮やカフェテリア、スポーツ、芸術を含めた学校文化の中で生活できる資質を持っているかどうかが試験の中で問われるわけです。公平性を保ちつつも英語という言語能力テストが、英語圏文化から全く中立であることは基本的には無理なことと言えるでしょう。

%e3%82%b3%e3%83%a9%e3%83%a03さて困りました。これから留学をしようというのですから海外経験がないのは当然。おまけに学校のカリキュラム内でこうしたことは直接的に教えてはくれませんし、先生たちも限られた時間の中ではムリだという返答が返ってくるでしょう。ではどうするか。手っ取り早い方法として僕は学生に北米や西欧の大学や学校を舞台にした映画を5本から10本見てもらいます。図書館で文献を探したり貸借したりする様子、深夜まで勉強する学生、寮の生活、週末、カフェテリアでの会話といったように西欧の大学文化に特有な背景知識に注目しながら見るのです。そういった大学文化の背景を知っておくのとそうでないのとでは、テスト内で遭遇する対話や講義の意味の結ばれ方が違います。文化人類学者のクリフォード・ギアツは人間を蜘蛛にたとえて、人間は自ら紡いだ意味の網目の上で生きる動物なのだと言っています。我々は文化という意味の地平に生きる存在であると考えると、これから立ち向かう海外の大学が一体どんな意味的地平を持つ場所なのかを知ることで、言語理解はかなり楽になり、改善するでしょう。

テスト作成者は公平性を目指し、できるだけ余計な文化的バイアスが働くことのないテストデザインを目指します。一方で受検者は、単に語彙や文法知識を増やしたり、作文力を向上させるといった言語知識や技術面での努力だけではなく、文化面での背景知識を一気に増やすことで、同じ実力でもより高いパフォーマンスを期待できるのではないでしょうか。文化的バイアスを逆手に取って、映画鑑賞をしながらスコアアップって言うのは虫の良すぎる話でしょうか。文化を知る者はテストを制す!?

 

<筆者プロフィール>

玉井健(たまいけん)

神戸市内の公立高校で15年間教鞭をとる。MAT(Master of arts in teaching)、Teacher trainer (School for International Training, 米国)、学術博士(神戸大学)。現在、神戸市外国語大学国際関係学科および大学院英語教育学専攻教授。研究分野は、リスニング、ライティング指導を経てリフレクティブ・プラクティスによる教師教育、授業研究法開発。著書:『リフレクティブな英語教育をめざして』(共著)ひつじ書房、『リスニング指導法としてのシャドーイングの効果に関する研究』風間書房、『決定版英語シャドーイング』コスモピア、Current Issues and New Thoughts on Reflective Practice 神戸市外国語大学外国学研究所。 趣味、陶芸。

 

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